シンガポールのプロパガンダソングを聴こう

シンガポールは今年の8月、建国55周年を迎える。シンガポールでは建国記念日にNDP(National day parade)と呼ばれる式典が行われるが、それに合わせて毎回テーマソングが公表されている。

 

例年は5,6月ごろに公表されるものなのだが、今年はまだのようだ。コロナウイルスの影響だろうか?

(追記)今年のNDPテーマソングは7月14日に公開されました。

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それでは「明るい北朝鮮」の異名で知られる独裁国家シンガポールのNDPテーマソングを聴いてみよう。

Stand Up for Singapore(1984,1985)

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"Stand up for Singapore"は最初*1のNDPテーマソングである。アップテンポな曲調のこの曲はアジア四小龍の一つとして急成長を遂げるシンガポールの勢いを感じさせる。

Count on Me Singapore(1986)

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"We have a vison for tomorrow"から始まる歌詞はやはり"Stand Up for Singapore"同様将来の明るさを感じさせる。

 

We Are Singapore(1987)

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この曲の特徴は何と言っても"National pledge"が歌詞に入っていることだろう。

We, the citizens of Singapore,

我らシンガポール公民は
pledge ourselves as one united people regardless of race, language or religion,

人種・言語・宗教にかかわらず一致団結し
to build a democratic society
based on justice and equality
so as to achieve happiness, prosperity
and progress for our nation.

我が国の幸福・繁栄・進歩を達成するために正義と平等に基づいた民主社会を作り上げることを誓う

 和訳は拙訳である。

"シンガポールらしさ"を凝縮した"National Pledge"の入った歌詞はこの曲を数多あるNDPテーマソングの中でも格別だと感じさせる。

 

2018年のNDPテーマソングはこの曲のリメイクであった。

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これは余談であるが、上で述べたStand Up for Singapore,Count on Me SingaporeおよびWe Are Singaporeの3曲を作詞作曲したのはシンガポール人ではなく、カナダ人のHugh Harrison氏である。

シンガポールのフリーペーパーThe New Paperによると、10人中9人がこのことを知らなかったとのことだ。

www.asiaone.com

One People, One Nation, One Singapore(1990)

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先述の"National Pledge"にも"pledge ourselves as one united people regardless of race, language or religion"というフレーズがあったように、シンガポールの人種政策は中華系・マレー系・インド系・欧米系が対立しないように徹底されている。例えばHDB flat(公共住宅)では人種が偏らないように入居者が割り当てられる。祝日も4人種の文化宗教を反映したものである。

ここまでシンガポール政府が人種政策に積極的に取り組んでいるのは、小国であるシンガポールにとって人種問題は国家が崩壊しかねない問題になりかねないからだと言われている。建国から4年後の1969年のシンガポール人種暴動においては80名の死者が出るにまで至ったことを考えれば、政府がこれほどにまでセンシティブになるのも納得できる。

 

この歴史が曲のタイトル"One People, One Nation, One Singapore"の重みを表していると言えるだろう。

 

Home(1998,2004)

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シンガポールへの想いが綴られたこの歌は世代を超えて愛されている。知り合いにシンガポール人がいたらどのNDPのテーマソングが一番好きか訊いてみてほしい。おそらく"Home"と答えるだろう。

 

建国の父リー・クアンユーがこの世を去った2015年、National Day RallyにおいてKit Chanは"This one is for LKY"の言葉を添えて"Home"を披露した。この曲はリー・クアンユーの作り上げたシンガポールを代表しているのである。

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疫情のさなか、シンガポールを代表するアーティストであるディック・リー("Home"の作詞作曲者である)らが前線の医療従事者に向けて"Home" を披露した。今なおこの曲が根強い人気を持っていることがうかがえる。

www.straitstimes.com

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中国語版

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2004年にはリメイク版が作られている。

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Together(1999)

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Where I belong(2001)

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We Will Get There(2002)

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上にあげた2000年前後の曲は名曲揃いだと思う。NDPテーマソングの黄金時代といったても過言ではないだろう。NDPテーマソングにしてはプロパガンダ臭が薄めなのが名曲の所以だろうか。

Reach out for the Skies(2005)

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この辺から現代っぽくなる。YouTubeのコメ欄には「幼稚園で歌った」などのコメントがチラホラ。

この頃日本もアテネオリンピックのテーマソングとして「栄光の架橋」をテレビやラジオで流しまくってたしNDPテーマソングも似たようなものだろうか。

One Singapore(2013)

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近年のNDPテーマソングの中では最も評判が悪い曲の一つ。この年からNDPテーマソングがクソになった、クソガキのラップのせいですべてが台無し等酷い言われようである。

まあ仕方ないかな...

Our Singapore(2015,2019)

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One SingaporeとOur Singapore、字面が似すぎている...

2019年にはこの曲のリメイクがなされた。2018年の"We Are Singapore"に続いてのリメイクであったので「またリメイクか」と失望の声が聞かれる。

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ここでは紹介できなかったNDPテーマソングも数多くあるので聴いてみてほしい。

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余談

国営企業であるMediaCorpが運営するサイトmeWATCHに、"We the citizens"というコメディがある。EP1では"Singapore sucks!"(シンガポールはクソ!)と吐き捨てる癖にほかの人に「お前はシンガポールを愛していないのか」と絡む面倒くさいカップルが登場するが、そのセリフがNDPのテーマソングの歌詞になっている。

www.mewatch.sg

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おわかりいただけただろうか。順にHome(1998),Stand Up for SIngapore(1984),We Are Singapore(1987)の歌詞である。

 

次の場面ではボケ老人に女性がNDPの曲(We Are Singapore)を教えるシーンがあるが、老人たちは全然歌詞を覚えられない。最終的に歌えたと思ったら...

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オチにマレーシアを持ってくるところまで含めてこれもシンガポールらしさである。

 

*1:正確に言えば「毎年テーマソングが出るようになってから初めて」である。これ以前には"Five stars arising"(1969)などがある。