香港国家安全法全文和訳

 拙訳は正確な訳であることを保証しません。正確性を要する時は原文および新華社の日本語訳を参照して下さい。

 

 目次

  第一章 総則

  第二章 香港特別行政区の国家安全を維持する職責と機構

   第一節 職責

   第二節 機構

  第三章 罪と罰

   第一節 国家分裂罪

   第二節 国家権力転覆罪

   第三節 テロ活動罪

   第四節 外国又は境外勢力と結託して国家の安全を脅かす罪

   第五節 その他の処罰規定

   第六節 効力範囲

  第四章 案件の管轄、法の適用及び手続

  第五章 中央人民政府駐香港特別行政区国家安全維持機構

  第六章 附則

 

第一章 総則


 第一条 本法は「一国二制度」「港人治港」の高度な自治の方針を堅実かつ完全かつ正確に実行し、国家安全を維持し、 香港特別行政区に関連する、国家の分裂、国家権力の転覆、テロ活動の組織、外国又は境外勢力と結託して国家安全を脅かすことを防止、取締、処罰し、香港特別行政区の繁栄と安定を維持し、香港特別行政区居民の合法的な権利と利益を保障するために中華人民共和国憲法中華人民共和国香港特別行政区基本法及び全国人民代表大会の国家安全を維持するための香港特別行政区の健全な法律制度と執行機構の確立に関する決定に基づいて制定された。

 第二条 香港特別行政区の法的地位に関する香港特別行政区基本法第一条及び第十二条の規定は、香港特別行政区基本法の基本的な条項であるとする。香港特別行政区のいかなる組織、団体又は個人も、香港特別行政区基本法第一条及び第十二条の規定に反して、権利及び自由を行使してはならない。

 第三条 中央人民政府は、香港特別行政区の国家安全業務の基本的な責任を負う。

  香港特別行政区は、国家安全を維持するための憲法上の責任を有し、国家安全を維持する義務を履行しなければならない。

  香港特別行政区の行政機関、立法機関及び司法機関は、本法及びその他の関連法に従い、国家の安全を脅かす行為や活動を効果的に防止、取締、処罰しなければならない。

 第四条 香港特別行政区は、国家安全を維持するために人権を尊重し、保障するとともに、香港特別行政区基本法と《市民的及び政治的権利に関する国際規約》、《経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約》に基づいた言論・報道・出版の自由、結社・集会・行進・デモの自由などを法に基づいて保護しなければならない。

 第五条 国家の安全に対する犯罪を防止、取締、処罰するときには法の支配の原則を堅持しなくてはならない。行為が犯罪を構成すると法律で定められている場合には、法に依って処罰される。行為が犯罪を構成すると法律で定められていない場合には、処罰されることはない。

  司法当局に有罪判決を受けるまでは、何人も無罪と推定される。 被疑者、被告人及びその他の訴訟参加者が享受する弁護権及びその他の訴訟上の権利は、法律に基づいて保護されるものとする。 何人も、既に裁判で最終的に確定した有罪判決を受け、又は無罪とされた行為について、再び裁判を受け、又は罰せられてはならない。

 第六条 国家の主権の保護及び統一と領土の保全は、香港の同胞を含む全中華人民共通の義務とする。

 香港特別行政区内のいかなる機関、組織、個人も、本法及び国家の安全の維持に関する香港特別行政区の法律を遵守せねばならず、国家の安全を脅かす行為や活動に従事してはならない。

 香港特別行政区居民は、選挙に立候補したり、公職に就いたりする際には、法律に基づき、香港特別行政区基本法を遵守することを確認あるいは宣誓する文書に署名し、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を誓わねばならない。

第二章 香港特別行政区の国家の安全を維持する職責と機構
第一節 職責

 

 第七条 香港特別行政区は、香港特別行政区基本法に規定されている国家の安全の維持に関する立法を早急に完成させ、関連する法律を整備しなければならない。

 第八条 香港特別行政区の法執行機関及び司法機関は、本法及び香港特別行政区の現行法に関連する国家の安全を脅かす行為や活動を予防、取締、処罰するための規則により、国家の安全を効果的に維持しなければならない。

 第九条 香港特別行政区は、国家の安全を維持し、テロ活動を防止するための努力を強化しなければならない。 学校、社会団体、メディア、インターネット等の国家の安全に関する事項について、香港特別行政区政府は必要な措置を講じ、広報、指導、監督、管理を強化しなければならない。

 第十条 香港特別行政区は、香港特別行政区居民の国家安全意識及び遵法意識を高めるために、学校、社会団体、メディア、インターネット等を通じた国家安全教育を推進しなければならない。

 第十一条 香港特別行政区行政長官は、香港特別行政区の国家安全の維持に関して中央人民政府に対して責任を負い、また、香港特別行政区が国家安全を維持するための職責を履行しているかどうかの年次報告書を提出しなければならない。

  中央人民政府の要請があった場合、行政長官は国家安全の維持に関する特定事項について適時に報告しなければならない。

 

第二節 機構

 第十二条 香港特別行政区は、国家安全維持委員会を設置する。委員会は香港特別行政区の国家安全を維持する事務の責任を負い、国家安全を維持する主な責任を担い、中央人民政府の監督と説明責任の対象となる。

 第十三条 香港特別行政区国家安全維持委員会は、行政長官を委員長とし、政務司長、財政司長、律政司長、保安局局長、警務処処長及び本法第十六条の規定する国家安全維持部門の責任者、入境事務処処長、海関関長、行政長官事務室主任を成員とする。

 香港特別行政区国家安全維持委員会は、事務総長の下に事務局を置く。 事務総長は行政長官が指名し、中央人民政府に報告して任命する。

 第十四条 香港特別行政区国家安全維持委員会の職責は次に掲げる事項とする。

  (一) 国家安全上の香港特別行政区の状況を分析・判断し、関連業務を計画し、香港特別行政区の国家安全政策を制定すること。

  (二) 香港特別行政区の国家安全を維持するための法制度と執行機構の確立を推進すること。

  (三) 国家安全を維持するための香港特別行政区の主要業務と主要行動を調整すること。

 香港特別行政区国家安全維持委員会は、香港特別行政区内の他の組織、団体、個人による干渉を受けず、業務に関する情報は公表しないものとする。 香港特別行政区国家安全維持委員会の決定は、司法審査の対象とはならない。

 第十五条 香港特別行政区国家安全維持委員会は、中央人民政府が指定した国家安全事務顧問を設置し、香港特別行政区国家安全維持委員会の事務の履行に関する事項について意見を提供する。 国家安全事務顧問は、香港特別行政区国家安全維持委員会の会議に出席しなければならない。

 第十六条 香港特別行政区警務処は、法執行能力を備える国家安全維持のための部門を設置する。

 警務処国家安全維持部門の責任者は行政長官が任命し、行政長官は任命の前に本法第四十八条の規定する機構の意見を書面で求めなければならない。警務処国家安全維持部門の責任者は、職務に就く際、中華人民共和国香港特別行政区基本法を守ることを宣誓し、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を誓い、法律を遵守し、秘密を保持しなければならない。

 警務処国家安全維持部門は、香港特別行政区外から資格を有する専門家や技術者を招聘し、国家安全維持に関する任務執行の支援を受けることができる。

 第十七条 警務処国家安全維持部門の職務は、次に掲げる事項とする。

  (一)国家の安全に関する情報の収集及び分析を行うこと。

  (二)国家の安全を維持するための措置及び行動を展開し、調整し、促進すること。

  (三)国家の安全を脅かす犯罪案件を調査すること。

  (四) 反干渉調査を行い、国家安全の審査を実施すること。

  (五)香港特別行政区国家安全維持委員会から委託された国家安全の維持のための業務を引き受けること。

  (六) その他本法の執行に必要な業務を行うこと。

 第十八条 香港特別行政区律政司は、国家安全維持に対する犯罪案件の刑事告訴業務及びその他関連する法律事務の責任を負う国家安全犯罪案件検察部門を設置する。 該当部門の検察官は、香港特別行政区国家安全維持委員会の同意を得て、律政司長が任命する。

  国家安全犯罪案件検察部門に関する律政司検察課の責任者は、行政長官が任命し、行政長官は任命の前に書面で本法第四十八条に規定する機構の意見を求めるものとする。律政司国家安全犯罪案件検察の責任者は、職務に就く際、中華人民共和国香港特別行政区基本法を守ることを宣誓し、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を誓い、法律を遵守し、秘密を保持しなければならない。

 第十九条 香港特別行政区政府の財政司長は、行政長官の承認を得て、国家安全のための支出と審査・許可に関わる人員編成に関して一般収入から専門の予算を割り振らなければならない。これは香港特別行政区で施行されている関連の法律規定によって制限されない。 財政司長は、該当支出の管理運営に関する年次報告書を立法会に提出することが義務付けられている。

 

第三章 罪と罰

 

第一節 国家分裂罪

 第二十条 何人も国家を分裂させ、国家の統一を破壊することを目的として、次に掲げる行為を組織し、計画し、実行し、又はその実行に参与した場合、武力の行使又は武力による威嚇の有無にかかわらず、罪に問われる。

 (一)香港特別行政区又は中華人民共和国のその他の部分を中華人民共和国から分離すること。

 (二) 香港特別行政区又は中華人民共和国のその他の地域の法的地位を不法に変更すること。

 (三) 香港特別行政区又は中華人民共和国のその他の部分を外国の支配下に移すこと。

 前款の罪を犯した者の中で、首謀者あるいは罪が重大な者は、無期懲役又は十年以上の有期懲役に処する。積極的に参与した者は、三年以上十年以下の有期懲役に処する。それ以外の参加した者は、三年以下の有期懲役、禁錮あるいは管制処分に処する。

 第二十一条  何人も、他人を煽動し、幇助し、教唆し、又は金銭あるいはその他財物によって資金援助して、本法第二十条に規定される罪を犯させた場合、罪に問われる。 事情が重大な場合には、五年以上十年以下の有期懲役に処する。事情が軽微な場合には、五年以下の有期懲役、禁錮又は管制処分に処する。

第二節 国家権力転覆罪

 第二十二条 何人も、武力、脅迫又はその他の不法な手段によって国家権力を破壊することを目的とする次に掲げる行為を組織し、計画し、実行し、又はこれに参与した場合、罪に問われる。

  (一) 中華人民共和国憲法に定める中華人民共和国の基本的な制度を転覆させ、又は破壊すること。

  (二)中華人民共和国又は香港特別行政区の政権機関を転覆させること。

  (三) 中華人民共和国の中央政権機関又は香港特別行政区の政権機関の法に基づく職能の履行を著しく妨害し、阻害し、又は破壊すること。

  (四) 香港特別行政区の政権機関がその職能を履行する場所や設備を攻撃したり、損傷させたりして、その職能の履行を不能にすること。

 前款の罪を犯した者の中で、主要人物あるいは罪が重大な者は、無期懲役又は十年以上の有期懲役とする。積極的に参与した者は、三年以上十年以下の有期懲役に処する。それ以外の参加した者は、三年以下の有期懲役、禁錮あるいは管制処分に処する。

 第二十三条 何人も、他人を煽動し、幇助し、教唆し、又は金銭あるいはその他財物によって資金援助して、本法第二十二条に規定される罪を犯させた場合、罪に問われる。 事情が重大な場合には、五年以上十年以下の有期懲役に処する。事情が軽微な場合には、五年以下の有期懲役、禁錮又は管制処分に処する。

 

第三節 テロ活動罪

 第二十四条 中央人民政府、香港特別行政区政府又は国際組織を脅迫したり、又は公衆を威嚇するために政治的主張を実現させる目的で、次に掲げるいずれかの社会に重大な被害をもたらす、又はもたらすことを意図したテロ行為を組織し、計画し、実行し、実行に参与し、又は威嚇に参与した場合、罪に問われる。

  (一)人に対する重大な暴力。

  (二)爆発、放火、又は毒性、放射能感染症の病原体を含む物質の放出。

  (三)輸送車両、輸送設備、電気設備、ガス設備、その他可燃性又は爆発性の設備の破壊。

  (四)水道、電気、ガス、輸送、通信、ネットワークなどの公共サービスやこれを管理する電子制御システムを著しく妨害したり、破壊したりすること。

  (五)その他危険な手段により公衆衛生又は安全を著しく脅かすこと。

  前款の罪を犯して人を死傷させ、又は公私の財産を著しく損壊させた場合、無期懲役又は十年以上の懲役に処する。 その他の場合には、三年以上十年以下の有期懲役に処する。

 第二十五条 テロ活動を組織し、又は指導した者は罪に問われ、無期又は十年以上の懲役に処し、財産を没収する。 積極的に参加した者は、三年以上十年以下の有期懲役及び罰金刑に処する。それ以外の参加者は三年以下の有期懲役、禁錮又は管制処分に処し、並びに罰金刑に処することもある。

 本法の指すテロ組織とは、本法第二十四条に規定するテロ行為の罪を犯し、若しくは犯そうとし、又はこれに参加する者又は本法第二十四条に規定するテロ行為の罪の実施を援助する団体のことである。

 第二十六条 テロ組織、テロ要員に対して、テロ活動を遂行するための訓練、武器、情報、資金、物資、労働力、輸送、技術又は場所などを提供し、支持し、協力し、便宜を図り、又は爆発性、毒性、放射性、感染症の病原体などを含む物質を不法に所有したりその他の形式でテロ活動の実行準備を行う場合罪に問われる。事情が重大な場合には、五年以上十年以下の有期懲役及び罰金又は財産の没収に処する。それ以外の場合には五年以下の有期懲役、禁錮又は管制処分に処し、並びに罰金刑に処する。

  前款の行為が他の罪にも該当するときは、その者は、より重い刑罰を科す場合の規定により、有罪として処罰する。

 第二十七条 テロを助長し、又はテロ行為を煽動した場合、罪に問われる。事情が重大な場合には、五年以上十年以下の有期懲役及び罰金又は財産の没収に処する。それ以外の場合には五年以下の有期懲役、禁錮又は管制処分に処し、並びに罰金刑に処する。

 第二十八条 本節の規定は、香港特別行政区の法律に基づく他の形態の犯罪的テロ活動に対する刑事責任の追及や財産の凍結などの措置に影響を与えないものとする。 

第四節 外国又は境外勢力と結託して国家の安全を脅かす罪

 第二十九条  外国若しくは境外の機構、組織若しくは人員に対して国家安全に関する国家機密や情報を盗み、スパイし、買い取り、不法に提供する者;外国若しくは境外の機関、組織若しくは人員に依頼したり、外国若しくは境外の機関、組織若しくは人と共謀したり、外国若しくは境外の機関、組織若しくは人員から直接又は間接に指示、管理、資金援助又はその他の支援を受けたりして次に掲げるいずれかの行為を行う場合、罪に問われる。

  (一) 中華人民共和国に対して戦争を発動し、又は武力又は武力による威嚇によって中華人民共和国の主権、統一及び領土の完全性に対して重大な危害をもたらすこと。

  (二) 香港特別行政区政府又は中央人民政府による法律や政策の策定や執行を著しく妨害し、深刻な結果をもたらす可能性があること。

  (三) 香港特別行政区の選挙を操作したり、妨害したりする行為で、深刻な結果をもたらす可能性があること。

  (四) 香港特別行政区又は中華人民共和国に対して、制裁、封鎖又はその他の敵対的行為を行うこと。

  (五) 様々な不法な手段を用いて、中央人民政府又は香港特別行政区政府に対する香港特別行政区の住民の憎悪を煽り、深刻な結果をもたらす可能性があること。

  

 前款の罪を犯した者は、三年以上十年以下の有期懲役に処する。事情が重大な場合には、無期懲役又は十年以上の有期懲役に処する。

 本条第一項の規定に関連する境外の機構、組織又は人員は、共犯者として、罪に問われ、刑罰に処する。

 第三十条 本法第二十条及び第二十二条に規定する罪を遂行するために、外国又は境外の機構、組織若しくは人員と共謀して、又は外国又は境外の機構、組織、人員からの指示、管理、資金援助、その他の形態の支援を直接又は間接的に受け入れる者の処罰は、本法第二十条及び第二十二条の規定により、より重いものとする。

第五節 その他の処罰規定

 第三十一条 会社、団体、その他の法人又は非法人組織が本法に規定する罪を犯したときは、その団体に対し、罰金刑を科する。

 会社、団体又は非法人組織が、本法に規定する罪を犯して刑事罰を受けた場合には、その運営の停止を命じられ、又はその免許又は営業許可を取り消されねばならない。

 第三十二条 本法に規定する罪を犯したことにより得た補助金、利益、謝礼等の不正な利益及びその目的に使用され、又は使用しようとされた犯罪の資金と道具は追跡され、没収されなければならない。

 第三十三条 次のような事情がある場合には、被疑者又は被告人は、減軽を受けることができる。 より軽い罰則は免除される場合がある。

  (一) 犯罪過程において、自らその行為を放棄し、又は犯罪の結果が生じるのを自ら効果的に防いだ場合。

  (二)自発的に警察に自首し、犯罪を正直に自白した場合。

  (三) 他人の犯罪行為を告発して証言した場合、又は他の事件を発見するための重要な手がかりを提供した場合。

 強制措置の対象となった被疑者又は被告人が、法の執行機関又は司法当局が知らない、本法に規定する他の罪を犯した事実を自白した場合、本条第二項に基づき処理する。

 第三十四条 香港特別行政区の永住者の資格を有しない者が、本法に規定する罪を犯した場合、強制追放が独立又は追加で適用される。

 香港特別行政区の永住者の資格を有しない者が、本法に規定する罪を犯し、理由の如何を問わず刑事責任を問われない場合には、強制追放されうる。

 第三十五条 何人も、国家安全を脅かす罪で裁判所から有罪判決を受けた者は、香港特別行政区で行われる立法会、区議会選挙に候補者として参加する資格を失い、又は香港特別行政区の公職又は香港特別行政区の行政長官選挙委員会の委員に就く資格を失う; かつて中華人民共和国香港特別行政区基本法の遵守を宣誓又は宣言し、中華人民共和国香港特別行政区への忠誠を誓った立法会議員、政府職員、公務員、行政会議の成員、裁判官等の司法官、区議員は、即時にその職を失い、選挙に立候補し、又はその地位に就くことができない。

 前款の規定による欠格若しくは失職は、当該選挙又は任免の組織若しくは運営の責任を有する機関が宣言しなければならない。

第六節 効力範囲

 第三十六条 本法は、香港特別行政区内で本法に規定する犯罪を犯した者に適用される。 香港特別行政区内で犯罪の行為や結果が発生した場合、香港特別行政区内の犯罪であるとみなされる。

 本法は、香港特別行政区で登録された船舶又は航空機内で本法に規定する犯罪が行われた場合にも適用されるものとする。

 第三十七条 香港特別行政区永久居民、又は香港特別行政区に設立された企業や団体などの法人、又は非法人組織が香港特別行政区外で本法に規定する罪を犯した場合、本法が適用される。

 第三十八条 香港特別行政区の永住権を有しない者が、香港特別行政区の外で香港特別行政区が実施する本法に規定する罪を犯した場合、本法が適用される。

 第三十九条 本法の施行後に犯した行為は、本法に基づいて罪に問われ、処罰される。

 

第四章 案件の管轄、法の適用及び手続


 第四十条 香港特別行政区は、本法第五十五条に規定する場合を除き、本法に規定する犯罪について管轄権を行使する。

 第四十一条 香港特別行政区の管轄する国家安全犯罪案件に関する調査、起訴、裁判、刑罰等の執行などの訴訟手続き事項については、本法及び香港特別行政区の法律が適用される。

 国家安全を脅かす犯罪案件に関しては、律政司長の書面による同意がなければ起訴してはならない。 しかし、このことは、法律に基づく当該犯罪に関する被疑者の逮捕及び拘留、並びに当該被疑者による保釈の申請に影響を与えるものではない。

 香港特別行政区の管轄区域内での国家安全に対する犯罪の裁判は、起訴によって行われる。

 裁判は公の場で行われなければならない。 国家機密、公の秩序等に関する事情により公の場で公判を行うことが不適当な場合には、報道機関及び公衆は、公判の全部又は一部を傍聴することを禁止するが、判決結果は一律公開されなければならない。

 第四十二条  香港特別行政区の法執行機関及び司法機関は、香港特別行政区で施行されている勾留、裁判期間等に関する法律の規定を適用する際には、国家安全上の犯罪に関わる事件が公正かつ適時に処理され、国家安全上の犯罪が効果的に防止、抑圧及び処罰されるようにしなければならない。

 保釈は、裁判官が、被疑者又は被告人が国家の安全を脅かす行為を継続して行わないと信じるに足る十分な理由がない限り、認められないものとする。

 第四十三条 国家安全を脅かす犯罪案件を処理する場合、香港特別行政区政府警務処国家安全維持部門は、次のような措置をとることができる。 香港特別行政区の現行法では、警察などの法執行機関が重大犯罪の捜査において様々な措置を講じることが認められており、また、次に掲げる措置を講じることができる。 

  (一) 犯罪の証拠が存在する可能性のある敷地、車両、船舶、航空機その他の関係する場所及び電子設備を捜索すること。

  (二) 国家の安全を脅かす犯罪行為を行った疑いのある者の渡航書類の引き渡しを要求し、又は出境を制限すること。

  (三) 犯罪の実行に使用され、又は使用しようとした財産、犯罪に由来する収益等の犯罪関連財産の凍結、差止命令、差押命令、没収命令及び押収命令を申請すること。 

  (四) 情報配信者又は関連サービス提供者に対して、情報の削除又は協力を要求すること。

  (五) 外国及び境外の政治組織、外国及び境外の当局又は政治組織の代理人に情報を提供するよう要求すること。

  (六) 行政長官の承認を得て、国家の安全に対する犯罪の実行に関与していると合理的に疑われる人員の通信傍受及び秘密の監視を行うこと。 

  (七) 調査に関連する情報や資料を所持又は管理していると合理的に疑われる人員に、質問に答え、情報や資料を提出するよう要求すること。 

  香港特別行政区国家安全維持委員会は、香港特別行政区政府警務処国家安全維持部門等の法執行機関に対し、本条第一項の規定に基づく措置の採択を監督する責任を負う。

  香港特別行政区行政長官は、香港特別行政区国家安全維持委員会に、本条第一項に規定する措置の採択に関連する実施内容を策定する権限を与える。

 第四十四条 香港特別行政区の行政長官は、裁判官、区域法院法官、高等法院第一審法官、控訴裁法官、終審法院法官のうちから若干名の裁判官を指名し、あるいは暫委法官若しくは特委法官の裁判官のうちから、若干名の裁判官を指定して、 国家の安全を脅かす犯罪の事例に対処する責任者としなければならない。 行政長官は、裁判官を指名する前に、香港特別行政区国家安全維持委員会及び終審法院の首席法官に相談することができる。 上記指定裁判官の任期は一年とする。

  国家の安全を脅かすような言動をした者は、国家の安全を脅かす犯罪の事件を審理する裁判官に指定されてはならない。 指定裁判官に選任されている間に、国家の安全を脅かすような言動をした者は、指定裁判官の資格を失う。

 裁判法院、区域法院、高等法院及び終審法院における刑事訴訟の手続きは、それぞれの裁判所の指定された裁判官が行う。

 第四十五条 本法に別段の定めがある場合を除き、裁判法院、区域法院、高等法院及び終審法院は、香港特別行政区のその他法律に基づき、国家の安全を脅かす犯罪案件の刑事訴訟の手続きを行わなければならない。

 第四十六条 律政司長は、国家の安全に対する違反行為に関する高等法院第一審裁判所における刑事訴訟の手続に関連して、国家機密の維持、案件の外国要素、又は陪審員とその家族の人身の維持などの理由で、陪審団で審理する必要がないことを指示する証明書を発行することができる。 上記の証明書が行政長官から交付された場合には、高等法院第一審裁判所は、陪審員を置かず、裁判官三人からなる合議審を行わなければならない。

 律政司長が前款に基づく証明書を発行する場合、「陪審員」又は「陪審団の裁決」に関する如何なる香港特別行政区の法律も当該手続に適用され、裁判官又は事実の判断者としての裁判官の機能を指すものと解釈されなければならない。

 第四十七条 香港特別行政区の裁判所における事件の審理において、当該行為が国家安全に関連するか、又は証拠資料が国家機密に関連するかが問題となった場合は行政長官の発行する当該問題に関する証明書を取得すること。上記の証明書は法院に対して拘束力を持つ。

第五章 中央人民政府香港特別行政区国家安全維持機構


 第四十八条 中央人民政府は、香港特別行政区に国家安全維持安全公署を設置する。 中央人民政府駐香港特別行政区国家安全維持公署の人員は、法律に基づいて国家安全を維持する職責を履行し、関連する権限を行使する。

 駐香港特別行政区国家安全維持公署の人員は、中央人民政府の国家安全維持のための関係機関が共同で配置する。

 第四十九条 駐香港特別行政区国家安全維持公署の職責は、次に掲げる通りとする。

  (一) 香港特別行政区の国家安全維持の状況を分析、判断し、国家安全維持のための主要な戦略と重要な政策について意見し、提言すること。

  (二) 香港特別行政区の国家安全を維持する職責の履行を監督、指導、協力、支持すること。

  (三) 国家安全情報の収集及び分析を行うこと。

  (四) 国家安全を脅かす犯罪案件を法律に基づいて処理すること。

 第五十条 駐香港特別行政区国家安全維持公署の人員は、法律に基づいて厳格に職責を履行しなければならず、法律に基づいて監督を受け、任意の個人や団体の合法的な権利、利益を侵害してはならない。

 駐香港特別行政区国家安全維持公署の人員は、全国的な法律を遵守するほか、香港特別行政区の法律を遵守しなければならない。 香港特別行政区国家安全維持機構は、法律に基づき国家監察機関の監督を受ける。

 第五十一条 駐香港特別行政区国家安全維持公署の資金は、中央人民政府が確保する。

 第五十二条 駐香港特別行政区国家安全維持公署は、香港特別行政区の中央人民政府駐香港特別行政区連絡事務室、外交部駐香港特別行政区特派員公署及び中国人民解放軍駐香港部隊との実務連絡及び実務協力を強化しなければならない。

 第五十三条 駐香港特別行政区国家安全維持公署は、香港特別行政区国家安全維持委員会と協力機構を設立し、情報の共有と業務の調整を強化しなければならない。

 駐香港特別行政区国家安全維持公署は香港特別行政区の国家安全維持に関わる業務部門と協力機構を設立し、情報の共有と業務の調整を強化しなければならない。

 第五十四条 駐香港特別行政区国家安全維持公署、外交部駐香港特別行政区特派員公署は香港特別行政区政府と、香港特別行政区政府と外国及び国際機関の駐香港特別行政区機構、香港特別行政区内の外国及び境外の非政府組織、報道機構の管理及び服務を強化するために必要な措置を講じることができる。

 第五十五条 次のいずれかの場合、香港特別行政区政府又は駐香港特別行政区国家安全維持公署室の提出及び中央人民政府の批准を得た後、 駐香港特別行政区国家安全維持公署室は、本法に規定する国家安全を脅かす犯罪案件の管轄権を行使する。

  (一) 案件が外国又は境外勢力の介入を伴う複雑な状況に関わっており、香港特別行政区の管轄権の行使が真に困難である場合。

  (二) 香港特別行政区政府が本法を効果的に執行することができない重大な事情がある場合。

  (三) 国家の安全に対する重大かつ現実的な脅威がある場合。

 第五十六条 本法第五十五条に規定する国家安全を脅かす犯罪案件に関わる管轄に基づき、駐香港特別行政区国家安全維持公署は起訴及び捜査を担当し、最高人民法院は関連する検察機関を指定して検察権を行使し、最高人民法院は関連する裁判所を指定して司法権を行使する。

 第五十七条 本法第五十五条の規定に規定される管轄案件の立件調査、起訴の審査、裁判及び刑の執行その他の手続については、《中華人民共和国刑事訴訟法》及びその他の関連法令の規定が適用される。

 本法第五十五条の規定により事件を管轄する場合には、本法第五十六条に規定する法執行機関及び司法機関は、法律の定めるところにより、その権限を行使しなければならず、これらの機関が発行する執行・捜査措置及び司法判断を決定するための法的文書は、香港特別行政区内で法律の効力を有する。 関係機構、組織、個人は法律に基づき、駐香港特別行政区国家安全維持公署の措置を遵守しなければならない。

  第五十八条 本法第五十五条の規定により事件を管轄する場合には、被疑者は、駐香港特別行政区国家安全維持公署に初めて尋問された又は強制措置を執られた日から、弁護士に委託して弁護人とする権利を有する。 弁護士は、法律に基づき、被疑者又は被告人に法的支援を提供することができる。

 犯罪の被疑者又は被告人は、適法に逮捕された後、速やかに司法機関による公正な裁判を受ける権利を有するものとする。

 第五十九条 本法第五十五条の規定により事件を管轄する場合には、何人も、本法に規定する国家の安全を脅かす犯罪が行われたことを知った者は、できる限りすみやかに公正なその犯罪の状況について真実の証言をする義務を負うものとする。

 第六十条 本法に基づく国家安全維持のための香港特別行政区政府事務所及びその職員の職務遂行上の行為は、香港特別行政区の管轄に服するものではない。

  駐香港特別行政区国家安全維持公署が職務遂行のために発行した証拠書類や証拠品を所持している人員、車両等は職務執行時、香港特別行政区の法執行官による検査、捜索、押収の対象とはならない。

 駐香港特別行政区国家安全維持公署及びその人員は、香港特別行政区の法律に定められたその他の権利及び免責を享受するものとする。

 第六十一条 駐香港特別行政区国家安全維持公署が本法の規定に基づいてその職責を履行するにあたり、香港特別行政区政府の関係部門は必要な便宜を図り、協力を行い、その職務の執行を妨げる行為に対しては、阻止するとともに責任を追及しなければならない。

第六章 附則


 第六十二条 香港特別行政区の現地法の規定が本法と一致しない場合は、本法の規定が適用される。

 第六十三条 本法に規定される国家安全を脅かす犯罪案件を処理する関係法執行機関、司法機関及びその人員又はその他の国家安全を脅かす案件を処理する香港特別行政区の法執行機関と司法機関の人員は、案件を処理する過程で知り得た国家機密、企業秘密、及び個人のプライバシーを秘密にしなければならない。

 弁護人又は法定代理人として行動する弁護士は、国家機密、商業秘密、業務上知り得た個人のプライバシーを保持しなければならない。

 事件の処理に協力する関係機関、団体及び個人は、事件の経緯を秘密にしなければならない。

 第六十四条 本法を香港特別行政区に適用する場合、本法に規定する「有期懲役」、「無期懲役」、「財産没収」及び「罰金」とは、それぞれ「監禁」、「終身監禁」、「犯罪収益の没収」及び「罰金」を意味し、「拘留」とは、香港特別行政区の関連法に規定する「懲役」、「労役センターへの入所」又は「訓練センターへの入所」を意味し、「管制処分」とは、香港特別行政区の関連法に規定する「社会奉仕命令」又は「少年院への入所」を意味し、「免許又は営業許可の取り消し」とは、香港特別行政区の関連法に規定する「登録の取り消し若しくは登録の除外、又は免許の取り消し」を意味する。

 第六十五条 本法の解釈権は、全国人民代表大会常務委員会に帰属する。

 第六十六条 本法は、公布の日から施行する。

 

 

 

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